『終電の神様』阿川大樹

 

無印良品ニトリに行くと必要以上に買い物をしてしまう。冷静に考えたら絶対にいらないモノなのに、店舗の敷居をまたいだ途端、「アレも欲しい。コレも欲しい」と言いながら、次々と商品をカゴの中に放り込んでいる自分がいる。お会計を済ませて家に帰るも「袋を開けるのは明日でいいや」と買い物袋を放り投げ、翌朝目が覚めた時に散乱した買い物袋たちを見て、前日の記憶が一瞬でフラッシュバックすると同時に後悔の念に押しつぶされたことは数えきれない。

「またやっちまった…」

頭では分かっていても、沸き立つ購買衝動を抑えるのは一筋縄ではいかない。

ただ、衝動買いしてしまっても「別にいいや」と割り切れるものもあって、その内の1つが『本』だ。前書き、後書きを読んで買うこともあれば、「この人の作品だから」という理由で買うこともある。ヒドいときには表紙だけ、帯だけ、タイトルだけ見て購入することだってある。

値段や機能性を確認せずに「これはSHARP製だから」という理由だけで洗濯機を買う人はいないでしょう。実際に見る、触る、話を聞く、その上で買うかどうかを決めるに至るのが正しい購買プロセスだと思います。

それら全てをガン無視して買っても「別にいいや」と割り切れる。ろくに中身も確認せずに買って後悔したのは、”雀鬼”こと桜井章一の名著『麻雀大全』をブックオフで100円で購入したときくらいだ。

なにはともあれ、衝動買いを許容してる唯一のモノが『本』ってわけです。

 

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阿川大樹の短編集。全七話。

 

短編集は普段読まないんですが、キレイな表紙とタイトルが気になって思わず買ってしまいました。「神様」って言葉は人を惹きつけますね。

第一話から第四話までは、主人公が乗っている電車が運転停止に見舞われる展開。

「なるほど。

”主人公が電車で移動してる最中に、その電車が止まる。電車が遅れたせいで、主人公を取り巻く運命が変わる。”てことか」

第四話まで読み終えて、残りの五、六、七話もこんな感じだろうと思っていた。

しかし、第五話で電車に乗っているのは主人公の恋人。さらに物語は偶然出会った女装家の人生の回想録に移行。なんだこれ、おい。

第六話では”満員の最終電車”は出てこないし、それどころか電車の描写すらほんの少し。それも”飛び込み自殺”の未遂現場…

いい加減にしてくれ!と叫びたくなる気持ちをグッとこらえ、最終話にページを進める。

第七話(最終話)では、今まで電車に”乗ってる側”の話だったのに、主人公が”電車に轢かれそうになる”というヒヤヒヤ展開。満員の最終電車は一体どこに行ったんだ?(2回目)

 

第四話まではごくフツーの進行だったのに、第五話以降の急な味変。その後もさらに味変、味変。

そのせいでいろんな感情を行ったり来たり。こんなに疲れる本だとは思ってなかった。

ただ、おもしろかった。

一話完結特有の展開の早さが心地いいし、「ん?この話って前の話と繋がってるのか?」という憶測を呼ぶ描写も仕掛けられている。読んでいて飽きない。

 

読了後、「こんなにおもしろいのなら他も読んでみたい」という短編集への興味が溢れてすぐさま本屋に直行した。スマホを取り出して『短編集 おもしろい』でググり、上位に表示された本を数冊購入してきた。

こういう発見があるから、本の衝動買いはやめられないんですよね。

 

【文中敬称略】

 

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