『天翔る』村山由佳
不登校になった悲劇のヒロイン・岩館まりもが、さまざまな人、馬との出会い、そして耐久レース・エンデュランスを通して成長していく様子を描いた物語。
一話進むたびに場面転換がされるため、読み進める中で「急に何の話してるの?」と思うことが何度もあった。それらの”まばらな点”が、さらに読み進めるうちに繋がりあい、気づいたら一つの壮大な物語になっているというのが印象的だった。しきりに張られる簡単な伏線とその回収の連続。優しめの『ONE PIECE』を読んでいる感じ。
本書で特に印象的だったのは、まりもの存在を際立たせるおっさんたちだ。”少女”と”おっさん”、まるで正反対のような生き物だが、馬を介することで同じ土俵に立つことを可能にしている。その上で彼らの男臭さがまりもを一際輝かせるものだから、読んでいてたまらない瞬間が何度もあった。
愛すべきおっさんたちは以下の通り。
- 蓮司:まりもの父。まりもが馬と出会う”きっかけ”を与える。
- 志渡:乗馬牧場<シルバー・ランチ>の主。まりもの乗馬の師匠。
- 漆原:芸能事務所<ゴールデン・エッグ>の社長。まりもや志渡をエンデュランスの道に誘う。
- 高岡:志渡と漆原の因縁の相手。まりもに”盆踊りおじさん”と揶揄される。
暑苦しいと敬遠されがちなおっさんが魅力的に映るのは、可憐な少女が主人公だからこそなのではと感じました。
不登校になったまりもは、看護師の貴子から誘われた石狩湾の志渡銀二郎の牧場で、乗馬の楽しさを知った。そして人と馬が一体となりゴールを目指す耐久レース・エンデュランスと出合う。まりもを見守る大人たちも皆、痛みを抱え生きていた。世界最高峰テヴィス・カップ・ライドへのはるかなる道のりを描く。
(『天翔る』あらすじ)